LGBT:パートナーシップ制度とは

2021/07/02ブログ

LGBTという言葉も人口に膾炙した感があります。

とはいえ、まだまだ法律の方は整備されていないのが現状です。

そんな中、日本では国の法改正に先行して、各自治体が独自に「パートナーシップ制度」を設けることで住民のニーズにこたえるというソリューションが試みられてきました。

そこで、今回はこの「パートナーシップ制度」について簡単に解説していきたいと思います。

 

 

パートナーシップ制度とは

定義

 

大前提として、「パートナーシップ制度」という言葉が意味するものは、導入している国・地域によって様々です。

そのため、これがパートナーシップ制度であるという定義を一義的に行うことは難しいように思われます。

他方で、それぞれの制度には類似点もあることから、ある程度の分類を行うことは可能です。

代表的なものを以下に紹介します。

 

分類1(契約型/婚姻型)

契約型

当事者間で契約を結ぶ形式のパートナーシップ制度をいいます。

契約ですので、あくまでも当事者間においてのみ効力が発生します。

もっとも、中には契約を行ったことを行政において登録することで、第三者に対する効力を認めるものもあります。

 

婚姻型

パートナーシップ制度に、婚姻に関する規定を準用するなどして、婚姻に近い効果を与えるものをいいます。

婚姻には、①両当事者間においての効力と、②第三者にも及ぶ効力がありますので、どこまで婚姻に近づけるかという意味でもバリエーションが考えられます。

 

分類2(同性型/非限定型)

同性パートナーシップ

同性のみが用いることができるパートナーシップ制度です。

多くの場合、婚姻に準ずる関係となることが多いようです。

 

非限定パートナーシップ

異性・同性その他全てのカップルが使えるパートナーシップ制度です。

多くの場合、婚姻とは異なる関係となることが多く、婚姻よりカジュアルに使える制度が多いようです。

 

分類まとめ

 

他にも様々な分類方法があり得ますが、上記2点による分類を整理すると、マトリックスとしては以下の通りとなります。

  同性型 非限定型
契約型 契約・同性型 契約・非限定型
婚姻型 婚姻・同性型 婚姻・非限定型

 

日本の自治体が導入している制度

 

日本の自治体が採用している制度は各自治体によって異なります。

しかし、パイオニアとなった2つの自治体の制度があり、後続する自治体もそのいずれかをベースとして採用するケースが多いようです。

以下に、その2つの自治体の制度を紹介します。

 

渋谷区方式(契約〔登録〕・同性型)

概要

渋谷区ウェブサイトによれば、渋谷区で採用されているパートナーシップ制度は、

  1. 法律上の婚姻とは異なるものとして
  2. 男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた
  3. 戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を
  4. 証明する

制度であるとされています。

特徴

渋谷区のパートナーシップ制度は、議会の決議によって制定された条例を根拠とするものです。
条例は法学上の「法規」に該当し、法的効果があります。

他方で、公正証書が2種類必要となっており、公正証書作成費用がかかります。

渋谷区方式は、公正証書によりカップル間で契約をし、その契約を行ったことを区が証明してくれるという建付けになっています。

 

世田谷区方式(契約型?同性型)

概要

世田谷区ウェブサイトによれば、世田谷区で採用されているパートナーシップ制度は、

  1. 同性カップルである区民が
  2. 自由な意思によるパートナーシップの宣誓を区長に対して行い、
  3. その宣誓書を受け取ることにより、
  4. 同性カップルの方の気持ちを区が受け止める

制度であるとされています。

特徴

世田谷区のパートナーシップ制度は、自治体の長の判断のみによって制定することのできる要綱を根拠とするものです。
要綱は法学上の「法規」ではなく、法的効果はありません。

宣誓書において互いをパートナーとすることを宣誓し署名するので、一応は契約といえそうですが、カップル同士がどのような法的関係に立つのかは不明確です。

しかし、特別な費用は必要とならないため、渋谷区方式よりも気軽に利用が可能です。

議会の議決が不要であるため自治体にとって導入が容易というテクニカルなメリットもあります。

 

いずれも「同性婚」とまではいえない

 

これらの両方式はいずれも婚姻型ではなく、契約型に分類されるものと思われます。

法学的に考えても、日本では婚姻についてのルールは国が定める法律により規定されており、かつ、その法律は同性婚を認めていません。

そのため、自治体が法律に矛盾する形で同性婚を独自に認めることはできないことになります。

したがって、各自治体が設けているパートナーシップ制度は、同性婚を認めたものではありません。

むしろ、同性婚が法律によって認められていないことを前提に、それでもなんとか当事者たちの差別や不便を解消するために編み出された工夫が形となった制度であるといえるでしょう。

 

全国的には世田谷区方式の採用例が多い

 

法律家としては法規たる条例を根拠とする渋谷区方式の方がよさそうにも思えます。

しかし、実際には気軽に利用できる世田谷区方式の採用が多いようです。

これは、世田谷区方式であっても

同性カップルが民間サービスを異性夫婦と同じように利用できるようにするという効果

を事実上得られるからではないでしょうか。

 

問題となりやすい民間サービス

 

同性カップルによる利用で問題となりやすい民間サービスとしては、

  • 保険(受取人としてパートナーを指定できるか)
  • 賃貸住宅(同居人としてパートナーを指定できるか)
  • 病院(面会や手術等に関しての同意ができるか)

などが挙げられます。

 

自治体によるパートナーシップ証明書があれば、同性カップルであっても利用を認めるという民間サービスは増えてきています。

 

まとめ

 

以上をざっくりとまとめると以下の通りです。

  1. パートナーシップ制度と一言で言っても地域によって千差万別。
  2. 日本では
    ①カップル間の契約を公的に証明する渋谷区方式と、
    ②カップル間の宣誓を行政が受け止める世田谷区方式
    がポピュラー。
  3. 日本のパートナーシップ制度はいわゆる「同性婚」ではない。
  4. 日本では②世田谷区方式を採用する自治体が多い。
  5. 日本のパートナーシップ制度は同性婚ではないものの、パートナーシップ制度を利用すれば、夫婦でなければ認められなかった民間サービスの利用が同性カップルであっても可能になる場合がある。

 

法改正を待てないなら公正証書の作成がおすすめ

 

以上、日本におけるパートナーシップ制度の概要でした。

日本全国の自治体がじわじわとパートナーシップ制度を導入し始めており、法改正への布石ととらえる向きもあるようです。

とはいえ、今を生きる当事者たちにとってみれば法改正実現まで待てないという方もいらっしゃるでしょう。

そのような場合は、婚姻契約や任意後見契約などを当事者間で締結し、公正証書にしておくことをお勧めします。

これによって、少なくとも当事者間では婚姻類似の関係を構築することが可能です。

また、パートナーシップ制度を利用した自治体から引っ越してしまっても効果が失われません。

SNSでシェアする

© 弁護士法人アインザッツ All Rights Reserved.