税制適格ストックオプションとは

2023/02/06ブログ

この記事の内容

この記事では、ストックオプションの中でも、「税制適格ストックオプション」に絞ってその内容や特徴について解説しています。

特に、条文が極めて読みづらいことから条文の分析に力を入れています。

税制適格ストックオプションを設計される際や発行前の学習にご利用ください。比較的専門性が高い内容となっております。

いつものざっくり解説は今後、別の記事で掲載します。

 

 

「そもそもストックオプションって何?」という方はこちらの記事を先にご覧ください。

ストックオプション(SO)とは? – 弁護士法人アインザッツ (einsatz.law)

 

税制適格ストックオプションとは

ざっくりした解説

税制適格ストックオプションとは、①課税タイミングと②適用税率の2点で権利者にとってお得なストックオプションです。

①課税タイミングについては普通のストックオプションより時期を遅らせて、現金が手元に入ってきたタイミングで税金を支払えばよくなります。

②税率については普通のストックオプションだと最大で55%ぐらい取られてしまうところ、20%ぐらいで済むようになります。

 

それでは、詳しい内容について見ていきましょう。

 

定義

税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法29条の2に定める要件を充たしたストックオプションのことです。

第1項柱書が大変読みづらいので以下に色分けして引用します。

 

(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)
第二十九条の二 会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)により新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)を与えられる者とされた当該決議(以下この条において「付与決議」という。)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(当該付与決議のあつた日において当該株式会社の政令で定める数の株式を有していた個人(以下この項及び次項において「大口株主」という。)及び同日において当該株式会社の大口株主に該当する者の配偶者その他の当該大口株主に該当する者と政令で定める特別の関係があつた個人(以下この項及び次項において「大口株主の特別関係者」という。)を除く。以下この項、次項及び第六項において「取締役等」という。)若しくは当該取締役等の相続人(政令で定めるものに限る。以下この項、次項及び第六項において「権利承継相続人」という。)又は当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(大口株主及び大口株主の特別関係者を除き、中小企業等経営強化法第十三条に規定する認定新規中小企業者等に該当する当該株式会社が同法第九条第二項に規定する認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画(当該新株予約権の行使の日以前に同項の規定による認定の取消しがあつたものを除く。)に従つて行う同法第二条第八項に規定する社外高度人材活用新事業分野開拓に従事する同項に規定する社外高度人材(当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画に従つて当該新株予約権を与えられる者に限る。以下この項において同じ。)で、当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画の同法第八条第二項第二号に掲げる実施時期の開始の日(当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画の変更により新たに当該社外高度人材活用新事業分野開拓に従事することとなつた社外高度人材にあつては、当該変更について受けた同法第九条第一項の規定による認定の日。次項第二号において「実施時期の開始等の日」という。)から当該新株予約権の行使の日まで引き続き居住者である者に限る。以下この条において「特定従事者」という。)が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(当該新株予約権に係る契約において、次に掲げる要件(当該新株予約権が当該取締役等に対して与えられたものである場合には、第一号から第六号までに掲げる要件)が定められているものに限る。以下この条において「特定新株予約権」という。)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。ただし、当該取締役等若しくは権利承継相続人又は当該特定従事者(以下この項及び次項において「権利者」という。)が、当該特定新株予約権の行使をすることにより、その年における当該行使に際し払い込むべき額(以下この項及び次項において「権利行使価額」という。)と当該権利者がその年において既にした当該特定新株予約権及び他の特定新株予約権の行使に係る権利行使価額との合計額が、千二百万円を超えることとなる場合には、当該千二百万円を超えることとなる特定新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益については、この限りでない。

 

柱書本文部分の整理

まだ読みづらいと思うので、本文の括弧書き以外の部分(もっとも色が濃い部分)のみ抜き出すと以下のとおりとなります。

 

[a] の[主語]が、もし[if]したときには、[効果]という効果が発生する。

 

と読めばわかりやすいと思います。

 

[a]の

[a] 会社法第二百三十八条第二項の決議により新株予約権を与えられる者とされた当該決議のあつた

[a-1]株式会社若しくは

[a-2-ア]当該株式会社がその発行済株式若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係 

当該株式会社が その発行済株式(の) 総数(の)  百分の五十を超える 数(の) 株式(を) 直接(に) 保有する関係
(その)出資の 総額の 金額の 出資を 間接に

(※この箇所の規定ぶりについては論理的に正しいかにつき疑義あり。註1)

[a-2-イ]その他の政令で定める関係にある

[a-2]法人の

 

[主語]が

[主語]

[主語-1]

[主語ー1-ア]取締役、執行役若しくは使用人である個人若しくは

[主語-1-イ]当該取締役等の相続人

又は

[主語-2]当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人が、(※註:括弧書きで特定従事者=専門家に限定されています。今回は取り扱いません。)

 

もし[if]したときには

[if] 当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、(※註:括弧書きで取締役等に付与された新株予約権である場合には1号~6号の要件を充たす場合に限定されています。今回取り扱う最もメジャーなパターンです。)

 

[効果]という効果が発生する

[効果]当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。

 

以上が税制適格SOについて定めた29条の2第1項柱書の骨子となります。

 

読みづらいけど実は2パターン定められている

上記のとおり、

[主語1]=取締役等に付与するパターンと

[主語2]=専門家に付与するパターン

とがあり、しれっと2パターンの税制適格SOが定められています。

 

専門家に付与するパターンは次回に譲り、今回は最もメジャーな取締役等に付与するパターンについて更に詳しく見ていきましょう。

 

要件

①「新株予約権」の要件

ア 新株予約権が株主総会決議またはその委任を受けた取締役会決議(=「付与決議」)により発行されたものであること(上記[a])

イ 新株予約権が無償で発行されたものであること(施行令19条の3第1項

②付与対象者=「取締役等」の要件

ア 付与対象者がSOを付与する株式会社またはその子会社の取締役、執行役または使用人である個人であること(上記[a-1, a-2])

イ 付与対象者が「大口株主」または「大口株主の特別関係者」でないこと(29条の2第1項柱書括弧書き)

③権利行使者の要件

権利行使者が取締役等またはその相続人であること(上記[主語1])

④「特定新株予約権」の要件

ア 当該新株予約権が当該付与決議に基づき締結された契約により与えられたものであること(上記[if])

イ 上記アの契約に以下1号~6号の要件が定められていること(上記[if])

 当該新株予約権の行使は、当該新株予約権に係る付与決議の日後二年を経過した日から当該付与決議の日後十年を経過する日までの間に行わなければならないこと。

 当該新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、千二百万円を超えないこと。
 当該新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること。
 当該新株予約権については、譲渡をしてはならないこととされていること。
 当該新株予約権の行使に係る株式の交付が当該交付のために付与決議がされた会社法第二百三十八条第一項に定める事項に反しないで行われるものであること。
 当該新株予約権の行使により取得をする株式につき、当該行使に係る株式会社と金融商品取引業者又は金融機関で政令で定めるもの(以下この条において「金融商品取引業者等」という。)との間であらかじめ締結される新株予約権の行使により交付をされる当該株式会社の株式の振替口座簿(社債、株式等の振替に関する法律に規定する振替口座簿をいう。以下この条において同じ。)への記載若しくは記録、保管の委託又は管理及び処分に係る信託(以下この条において「管理等信託」という。)に関する取決め(当該振替口座簿への記載若しくは記録若しくは保管の委託に係る口座又は当該管理等信託に係る契約が権利者の別に開設され、又は締結されるものであること、当該口座又は契約においては新株予約権の行使により交付をされる当該株式会社の株式以外の株式を受け入れないことその他の政令で定める要件が定められるものに限る。)に従い、政令で定めるところにより、当該取得後直ちに、当該株式会社を通じて、当該金融商品取引業者等の振替口座簿に記載若しくは記録を受け、又は当該金融商品取引業者等の営業所若しくは事務所(第四項において「営業所等」という。)に保管の委託若しくは管理等信託がされること。

 

⑤取得方法の要件

ア 当該契約に従って行使することにより当該特定新株予約権にかかる株式の取得をした場合であること(上記[if])

イ 当該権利者が、当該権利者(その者が権利承継相続人である場合には、その者の被相続人である取締役等)が当該特定新株予約権に係る付与決議の日において当該行使に係る株式会社の大口株主及び大口株主の特別関係者に該当しなかつたことを誓約する書面を当該株式会社に提出したこと(29条の2第2項1号)

ウ 当該権利者が、当該特定新株予約権の行使の日の属する年における当該権利者の他の特定新株予約権の行使の有無(当該他の特定新株予約権の行使があつた場合には、当該行使に係る権利行使価額及びその行使年月日)その他財務省令で定める事項を記載した書面を当該行使に係る株式会社に提出したこと(29条の2第2項3号)

 

効果

(1)当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない(上記[効果])。

(2)ただし当該新株予約権の行使にかかる権利行使価額の年間の合計額が1200万円を超える場合の、その1200万円を超えることとなる当該特定新株予約権の行使にかかる経済的利益を除く(29条の2第1項柱書)。

 

税制適格ストックオプションのメリット

1 課税タイミング

税制適格ストックオプションは割当時や権利行使の時点では所得税を課されません。
権利行使により取得した株式の譲渡時に利益が出た時点で課税されることとなります。

権利行使をして株式を手に入れたタイミングだと、権利者は手元に株式こそあれ税金を支払うための現金はないのが通常です。

そのため、税制適格SOを用いることで譲渡した時に課税タイミングをずらせるのはとても便利です。

 

2 適用税率

本来は給与所得

ストックオプションは役員報酬や従業員への給与の代わりに渡される新株予約権ですので、本来であれば給与所得として課税されます。

給与所得は所得税・住民税を合わせて最大で55%の税が課されます。

 

税制適格SOだと譲渡所得

しかし、税制適格SOであれば、株式の譲渡所得として課税されますので、適用される税率は約20%です。

したがって、多くの場合は税制適格SOの方が納めるべき税額を低く抑えることができます。

 

税制改正で変更予定あり

税制適格SOについては、権利行使期間や株券の保管委託要件について法改正が予定されています。

より使いやすい制度となる予定ですので、改正法案が可決され次第、本記事もアップデートする予定です。

 

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おまけ(全く読む実益はありません)

註1:条文の規定ぶりについての疑義

全くの余談ではありますが、租特法29条の2第1項の

「当該株式会社がその発行済株式若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係」

との規定ぶりについては論理的に正しいものであるのか若干の疑義があります。

 

クロス型とパラレル型

クロス型

前提となる知識として、「若しくは」や「または」が複数の結合されたグループに用いられている場合、たすき掛けによる組み合わせの全パターンを意味するのが通常です(クロス型)。

 

例:憲法14条1項

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

上記の場合、以下の全パターンの差別(5×3=15パターン)が禁止されていることは明らかです。

  • 人種×政治的
  • 人種×経済的
  • 人種×社会的
  • 信条×政治的
  • 信条×経済的
  • 信条×社会的
  • …(略)

 

パラレル型

もっとも、例外的にたすき掛けを行わず、ただ横に読んでいくだけの場合がまれにあります(パラレル型)

例:刑訴法62条

第六十二条 被告人の召喚、勾引又は勾留は、召喚状、勾引状又は勾留状を発してこれをしなければならない。

 

上記の場合、「被告人の召喚」の際に「勾留状」を発すればよいわけではないのはある種の一般常識として看破できます。

※このパラレル型は論理式の仕組みからも逸脱しますし、クロス型と見分ける方法がある種の「ノリ」でしかないため、そもそもあまり望ましい規定方法ではないと思います。

 

上記文言はパラレル型とクロス型の合わせ技

前半はパラレル型

さて、ここまで前提知識を頭に入れた上で、先ほどの文言を整理すると、「若しくは」で接続されている各文言の関係は下記のとおりとなります。

 

これをクロス型として読んでみると、

「その発行済株式」の「総額」の百分の五十を超える「数」の「出資」

といった組み合わせになってしまいます。

この組み合わせは意味が通りませんので考えづらいように思われます。

そうすると、この文言では例外的にパラレル型が使われているものと思われます。

「その発行株式の総数の百分の五十を超える数の株式」

「その出資の総額の百分の五十を超える金額の出資」

といった形でパラレルに読んでいくというわけです。

 

最後だけクロス型?

しかし、よく見ると最後の「直接」か「間接」かという部分に関しては組み合わせ(クロス型)であるように思われます。

確信があるわけではありませんが、株式の場合を「直接」に限定し、出資の場合を「間接」に限定する理由がありませんのできっとクロス型なのではないでしょうか。

この関係を表として整理するならば以下のとおりです。

 

パラレル型とクロス型の合わせ技はありなのか?

仮にこのような理解が正しいのだとすれば、パラレル型とクロス型が何の予告もなしに切り替わっていることになります。

これはさすがに間違いとしないと法文を正しく読み取ることが不可能となるのではないでしょうか。

仮に間違いではないとしても、下記のように定める方がずっと読みやすいと思います。

 

Before

「当該株式会社がその発行済株式若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係」

After

「当該株式会社が、その発行済株式の総数の百分の五十を超える数の株式若しくはその出資の総額の百分の五十を超える金額の出資を、直接若しくは間接に保有する関係」

 

租特法や金商法は条文の構造が複雑で大変読みづらく、実務家にとってもかなりの負担となっています。

なるべく読みやすい条文に少しずつ変えていくべきではないかと思う次第です。

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